The choice of FP & being an Asian American Athlete /フリーの選択と中国系アメリカ人アスリートであること

 

こんにちは。Media Summitのお話はちょっと置いておいて、今日は

ネイサンが今季のフリープログラムと自分のアジア系のルーツを重ね合わせることはあるのか、という最近よく目にする問いについて、これまでのインタビューを見返し、聞き返しながら、自分なりに考えてみたいと思います。

以前の記事でも、「ネイサンがアジア的な要素を出したプログラムを選ぶのは正直意外でした。なぜなら、ネイサンが自分がアジア系であることを強く意識した主張をするのを聞いたことがなかったからです。むしろ逆だと感じていました」と書きましたが、今日はその続きです。

ネイサンはこちらの記事でも紹介しましたようにー>フィギュア界でアジア系アメリカ人の復興をリードする二人ののなかで、

「多分、僕自身が感じてきたより両親はマイノリティであることを意識しているでしょうね。両親は僕がマイノリティであると感じることから守ろうとしていたので、そのせいで僕はそれを全く意識しないで育ちました」といい、さらに笑って「子供の時リンクでスケートをしているときは、50人滑っている子のうち僕だけが男の子。多分自分が意識していたのはそのことだけだったんじゃないかなあ。でも成長するにつれて出る試合ごとに次々アジア系の選手に会うようになり、クールだなあと感じるようになりました」

“I think my parents felt us being a minority a little bit more than I did, and they tried to shelter me from that so I didn’t feel it at all,” Nathan Chen explained. He then added, laughing: “On the ice as a kid, I was the only male skater in a group of 50 girls. That was maybe the only thing I was self-conscious about. (But) as I got older, there were more and more Asian kids at competitions that I was going to – that felt cool to me.”

と話しており、

自分からはアジア系であることを強調していないのです。彼が自分がアジア系であることを強く意識して自分からすすんで発言するのを目にしたことはありません。ネイサンがアジアンテイストなプログラムを選んだのが意外だと思ったのはそういう理由です。(同じ中国系のアメリカ人選手でもヴィンセント・ゾウ選手は自分や両親のバックグラウンドについてすすんで話しているように思われます。)

ただご両親への感謝の気持ちは格別のようです。

ネイサンのご両親は1988年にアメリカに移住、ソルトレイクシティで3人の男の子、2人の女の子を育てました。お父様であるZhidong Chenさんは、中国の田舎町で育ち、ユタ大学に留学、研究者として残り、現在は医薬品研究の会社を経営されています。お母様のHetty Wangさんは医療通訳者です。

今年5月29日ESPNニュースの記事ですが、両親を尊敬する気持ちとしてネイサンは

「アメリカ人と中国人の間にはたくさんの文化の違いがあり、両方の側面を持つことによって、勉強の面からアスリートの面まで、いろんな点で僕は助かっていると思っています。両親は、あまり多くを持たずにアメリカに来ました。二人がここまで辿り着くのにどれだけ長い道のりを歩んで来たか、僕たちのためにどれだけ一生懸命に働いてきたのかと思うととても励まされます。お父さんは当時大学に通いながらのことでしたが、たくさんの子供を育て、二人が経て来た様々なことの話を聞くだけで、本当に僕はやる気が出るんですよ」と話しています。

“There are a lot of cultural differences between Americans and Chinese, and I think that having both aspects be part of my life has helped me in a lot of ways, from an academic standpoint to an athletics standpoint,” Chen said “They came to the U.S. with not much, and it’s really inspirational to see how far they’ve come and how hard they worked for us. To be able to raise that many kids, and my dad was going to school at the time, just to listen to some of the stuff they’ve been through really motivates me.”

How U.S. teen Nathan Chen jumped into upper echelon of figure skating(ティーンエイジャーのネイサンがジャンプでフィギュアのトップの階層に仲間入りしたわけ)ESPN

 

一般に中国系アメリカ人と言っても、アメリカに来た理由、時期、教育、経済の程度によって全然事情は異なってくるのでしょう。

 

映画「小さな村の小さなダンサー」では、北京でバレエを学び、バレエを通して毛主席の革命に貢献する生徒たちを選ぶために、主人公の住んでいる貧しい小さな村の小学校にもリクルーターが送られてきた様子が描かれています。文化大革命は1966年から1976年まで続き、1977年に終結宣言がなされました。主人公リー・ツンシンが初めてアメリカを発ったのは 1979年。ヒューストンの劇場で「くるみ割人形」を踊り、6年ぶりに両親と再開したあのシーンは、1984年12月。ネイサンのご両親がアメリカに来られたのは1988年でした。

 

 

映画の各場面とネイサンのご両親やネイサンの姿を重ね合わせて号泣、とまでは私はいきませんでした。皆さんと感覚を共有できなくて申し訳ないです。私の彼と彼のご家族のイメージは、仲良く結束してほんわか温かい気持ちにさせる、そういうものでしかないからなのです。映画自体はカラッとして観やすく、歴史や移民法、政治とバレエの関わりなどを観る上でとても面白いものでしたが。

エイミ・タンの「ジョイ・ラック・クラブ」を読み中国系アメリカ人の生き方について興味があって、中国人の多いサンフランシスコとニューヨークに住んでいたこともあって、中国系アメリカ人の方達と接することは多かったです。学校でも、普段の生活でも。その人たちのことを思い出すと、痛みも含め様々な感情の源流に遡るような気持ちになり、なにかこうだった、ああだったと話すことができません。

私ですらなかなか言葉ではいい表せないのだから、ネイサンや、北京から移住されたネイサンのご両親が、映画との関係で、このプログラムについてどんな思いでいらっしゃるのか、そう簡単には語ることはできないだろうな、心の中を伺うこともできないのではないかと個人的に思います。

じっとひとの目を見て話を聞いてくださるのが印象的な、聡明で実直そうなネイサンのお母様の面影を思うと、何も知らないまま想像であれこれ結びつけて書くのは控えようかなと思います。今後インタビューなどで、そういった話題にも触れられるでしょうね。その時は真っ先に読みたいです。またいつかお会いする機会があれば、そんなお話も伺うことができたらいいなと思っています。

ところで、フリーの楽曲「毛沢東の最後のダンサー」はローリーが提案したそうですね。ネイサンが、いろいろなアイデアやストーリーラインを示してくれて、おかげで音楽や動きの意味を理解することができました。シーズンを前に表現面の改善する上で本当に助けていただきました、と先日の記者会見で話していました。
またジャパンオープンであと1週間もしないで観ることができるので、楽しみにして待ちましょう。

それではまた!

 

Fam beachin🌊 pc: @alicefchen

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*その他参考にしたもの:

  • A Junior Champion at 14, and a Rising Talent for 201A Junior Champion at 14, and a Rising Talent for 2018, New York Times, January 13, 2014, https://nyti.ms/2jNJHoJ
  • 「小さな村の小さなダンサー」(徳間文庫)
  • ICE NETWORK, Nathan Chen, http://web.icenetwork.com/skaters/profile/nathan_chen  (お母様がネイサンのジュニアの頃のコスチュームのデザインも担当されていますね。
  • こちら、ヴィンセント選手の素敵な中国語作文の日本語訳です。あきのさんが訳してくださいました。素晴らしい翻訳なので、是非読んで見てください。

 

 

 

*「ジョイ・ラック・クラブ」(角川文庫):20世紀初頭のサンフランシスコを舞台に、中国から移住して苦難の人生を生きてきた4人の女性と、アメリカ人として生まれ育った彼女たちの4人の娘たちの世代間の相違と心の絆を描いた作品。

 

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